「知っている野菜をできるだけたくさん言ってください」のやつ。
野菜の名前をたくさん言う課題は、語流暢性課題(カテゴリー語想起課題)と言いまして、有名な長谷川式認知症スケール(HDS-R)の設問のひとつにもなっています。
今回は、この語流暢性課題(カテゴリー語想起課題)を、私、STぷりんがどんな風に考えてリハビリをしているのか、をお話してみようかなと思います。若いSTさんや、他職種の方へのヒントになればと思います。
また、一般の方にも読んでいただけるように、用語は分かりやすく言い換えている部分もあります。
※検査としてHDS-Rなどを実施する場合は、決められた教示・時間・採点方法に沿って行う必要があります。
この記事では、検査方法ではなく、リハビリ場面で語流暢性課題を使うときに「どこを観察するか」「言葉が止まったときにどう支援するか」を中心に書いています。
HDS-Rは、介護福祉士さん、臨床心理士さん、理学療法士さん、作業療法士さんなど様々な方が実施する機会があると思うので、この語流暢性課題をやったことがある方は多いと思います。
語流暢性課題(カテゴリー語想起)は、検査項目でもありますが、テーマを変えてリハビリの訓練項目としても使いますよね。
この課題、ただ1分間に何個言えたかな、と数だけ数えるのではもったいない、様々な機能が関わるとても深~い課題です。
でも、この課題、やる側にとっては超シンプルな課題ですが、出される側にとってはなかなかキツイ課題なんですよ。とても身近で、たくさん知ってるはずの物(例えば野菜)の名前が、いざ答えようとしたら全然出てこない!となると、かなりのショックを受ける方もいらっしゃいます。
検査で聞かれたのを覚えていて、リハビリでやろうとすると「こういうの嫌なんだよー」と仰る方もいるし、中には検査の翌日のリハビリで、「昨日やった野菜の名前を言えっていうテストで答えられなかったのが悔しくて眠れなかった!」なんて仰る方もいました。
だから、リハビリでこの課題を使うときは、できるかどうかを試そうとしてやるのではなく、
どうすれば言葉が出やすくなるかを一緒に探すという姿勢が大事かなと思っています。
ちなみに、私はつい単純に「語想起」と呼んでしまうのですが、「語想起」は呼称(目の前のリンゴを見て「リンゴ」と言うこと)も含む広い言葉なので、ここではきちんと語流暢性課題と呼ぼうと思います。
語流暢性課題 Word Fluency Test とは?
ざっくり言うと、脳内の”言葉の辞書”から、決められた条件に合う言葉を、制限時間内(だいたい1分)にどれだけ引っ張り出してこれるか、という力のことです。 語流暢性課題には、大きく2種類あります。
- 「野菜」「動物」のようにカテゴリーから探すもの(意味流暢性)Category Fluency Test
- 「『あ』で始まる言葉」のように音から探すもの(音韻流暢性)Letter Fluency Test
この課題は、単純な課題のようで、複数の言語・認知機能が関わる課題です。
例えば、
・脳内の言葉の引き出しを開けて(意味記憶へのアクセス)
・条件に合う言葉を効率よく探し(語彙検索)
・同じ言葉を二度言わないように見張りつつ(自己モニタリング)
・検索した語彙を発話で答える(喚語) などの複数の機能を同時に働かせる必要があります。

語流暢性課題のclustering(クラスタリング)とswitching(スイッチング)
【条件に合う言葉を効率よく探す(語彙検索)】ためには、作戦を立てる必要があります。 「やみくもに思いついたものを言っていく」という作戦は、あまりいい作戦ではないですよね。
私がこの課題をやるときに見ているのは下記のような視点です。
・この人はどういう作戦で言葉を探してくるのかな?
・最初の作戦が上手くいかなかったり、ネタが尽きてしまったらどうするのかな?
これ、調べてみると、論文でちゃんと書かれていることだったのでご紹介。
Troyer et al.(1997)の提唱した概念で、1分間の語列挙を、clustering(クラスタリング)と switching(スイッチング)という2軸でみるというものです。
・意味的・音韻的に近い語をまとめて出す方略
例: [野菜]なら、
青菜の仲間=ほうれん草・小松菜・青梗菜…
根菜=にんじん・大根・ごぼう・じゃがいも…
カレーに入れる=にんじん・じゃがいも・玉ねぎ…
夏野菜=トマト・ナス・キュウリ・ピーマン…
など、まとまりで思い出すことをいいます。
あるクラスターに属する単語を言い尽くしたら別のクラスターに切り替えよう!と発想を転換できること
例:青菜の仲間が思いつかなくなったら、根菜を思い出す、それも思いつかなくなったら夏野菜を思い出す、など。
柔軟に色々な切り口で探せると、想起できる語が増える。
このように、語流暢性課題では、どういうまとまりで探しているか、行き詰まったときに切り替えられるかと言うのが重要な視点ですよ、という風に紹介されています。
私、お恥ずかしながらこの論文の存在を知らなかったんですが、Claude(AI)と語流暢性課題の話をしてたら、この論文に書いてあるよと教えてくれました。「そうそう!私もそう思ってた!!」と小躍りしたSTぷりんでした。
ワーキングメモリーも結構使っている
語流暢性課題では、ワーキングメモリ(作動記憶)も使います。
ワーキングメモリとは、ものすごくざっくり言うと、作業をしている時に今やっていることを頭に置いておく力です。
ワーキングメモリが上手く働いていないと、「花の名前を言ってください」という課題をしていたはずなのに、途中からだんだんお題があいまいになって、いつの間にか「春といえば何か」を考え始めてしまったりします。
また、さっき想起した同じ単語をまた初めて思いついたかのように言ってしまうこともあります。
表にまとめると下記のような場面でワーキングメモリーが必要になります。
(もっとあるかもしれませんが代表的な物を挙げます)
これらをしっかり補って語の想起に集中していただくのか、
はたまた、あえて補わずに、ワーキングメモリーを駆使して頑張っていただくかは、お一人お一人に合わせて調整する必要があります。
(※負荷の調整はなんとなくやらずに、なぜそうするのかを理解してやりましょう!)
| ワーキングメモリーが必要な場面 | できない時の対処法(補い方) |
|---|---|
| テーマを覚えておく | テーマを書いておく |
| 自分が言った言葉を覚えておく | 想起した言葉を(支援者/本人)が書きだしながら行う |
| 同じ言葉を言わないようにする | 〃 |
| どうやって言葉を探そうか考える | 下位カテゴリーをヒントとして提示する |
| そもそも課題に取り組んでいることを覚えておく | テーマと課題の指示文を書いておく |
語流暢性課題が得意な人・苦手な人
私は、認知症、失語症、高次脳機能障害のある方とのリハビリで、このような語想起課題を使うことがあります。そして、この課題が苦手な方はけっこう多いです。
たとえば認知症の方では、普段の会話はある程度成立しているように見えても、カテゴリー語想起になると、1分間で数語しか出てこないことがあります。アルツハイマー型認知症の方では、健常高齢者と比べて語流暢性課題の成績が低下するという報告もあります。
ただ、臨床では本当に個人差があります。
日付や直近の出来事を覚えておくことは難しいけれど、野菜や花の名前は比較的たくさん出る、という方もいます。
また、カテゴリーを指定するとスラスラ言えるのに、語頭音を指定すると途端に難しくなる方もいます。
このあたりは、検査得点だけでは見えない「その方なりの得意・不得意」があるのだろうと思います。
ここは私自身もまだ整理中なので、詳しい方がいたらぜひ教えてください。
(※LINE公式からお願いします♪問い合わせフォームもあります。)
また、当然ながら、そもそもそのカテゴリーに親しみがあったかどうか、にも大きく依存します。
スポーツ観戦が趣味ならスポーツ名は得意だったり、ガーデニングが趣味で花の名前は得意、農家だから野菜は得意など、様々です。
(※ 得意なはずのジャンルでうまくできないとショックを受ける方も多いので、そのあたりはフォローが必要です。ぜひ次の章をご参照ください。)
止まってしまったときの工夫 ~ヒントの出し方~
この課題、『いっぱいあるんだけどなぁ。全然出てこないなぁ!』と止まってしまったら…。
まぁ、その後は、自力ではうんともすんとも出てこないことがほとんどなんですよね…。
そんな時は、いろいろとお手伝いをしてみます。
その方の状態に合わせて、ヒントの種類を変えますが、下記のような種類のヒントが挙げられます。
例えば「花」がテーマの場合…
| ヒントの種類 | 声かけ・方法の例 | STは何を見ているか |
|---|---|---|
| テーマの再提示 | 「何の名前を思い出すんでしたっけ?」 | お題を保てているか |
| クラスターの提示 | 「春の花で考えてみます?」 | まとまりで探せるか |
| 場面の提示 | 「お花屋さんの店先を思い出してみて」 | 場面から連想できるか |
| 意味ヒント | 「3月の終わり頃に満開になる花は?」 | 意味から言葉にたどり着けるか |
| 視覚ヒント | 写真、絵カード、実物を見せる | 見れば名前が出るか |
| 音韻ヒント | 「ひ、で始まります」 | 音の手がかりが有効か |
この課題は、出た言葉の数だけを見るものではなくて、どんなヒントがあれば言葉が出るのかを観察できるのも大きなポイントです。
失語症のリハビリでは、どんなヒントが有効かをかなり意識すると思いますが、
認知症の方でも、進行に伴って言葉の出にくさや理解の難しさが目立ってくることがあります。
そのため、認知症の方に対しても、ヒントの効き方を見る視点はとても大事だと思っています。
また、こういう課題が苦手な方は、普段の会話でも意外と具体的な言葉が出にくく、「たくさんあるわよね」「色々あるよね」で済ませてしまっていることも多いかもしれません。
そういう日常の話し方と結びつけて評価できるのも、この課題のいいところだなと思っています。
あれ??これは私の訓練なんだっけ?
ヒントを出して一つ思い出せても、そこから横の連想が広がらず、結局、私がひたすら意味ヒントを出し続けるだけになってしまい、これはもはや私の語想起訓練&意味ヒントを考える訓練なのでは?と思うことも多々あります…
また、「ほら、こういうのですよ」とその場で絵を描いてみたりしているうちに、
「あれ? いつの間に私のイラスト当てクイズみたいになってる…うぅ…もう絵が描けない…」
と悶える私を、利用者さんがにこにこ見ているだけになってた…なんてこともあります。
なにせ画才がないもので、困ったものです。あぁ絵が上手くなりたいなー!
タブレットやスマホが臨床で使えるときは、ネットで検索して画像を見せたりしてなんとか切り抜けております。
ヒント出しや会話のお供に、色々なジャンルの本や雑誌を置いておくのもいいですね。

語流暢性課題として成立しなくても、いいんです!
全然単語が出なくなってしまったら、開き直って、1つ出てきた単語(ヒント有で出てきたものでもOK)から膨らませてお話を伺って、会話訓練に変更してしまうこともあります。
たとえば「桜」が出たら、
・ご近所で桜が見られるところはありますか?
・お花見は行きましたか?
・桜の種類ってすごくたくさんあるらしいですね!
というように、1つ出てきた単語から話を広げます。
また、当ぷりんプリントの「季節を感じる音読プリント」を見せて、音読したり会話をしたりもします。
こうなってくると、語流暢性課題としてはもう成立していませんけれども…いいんです!!
その方の言葉や記憶の引き出され方は、むしろよく見えてきます。
- 具体的な経験に結びつくと話せるのか
- こちらが例を出すと広がるのか
- 写真や文字があるとどうか
- 単語は出にくいけれど、文脈があると話せるのか
- 逆に、話題が広がるとお題から外れやすいのか
こういうことが見えてきます。これらは、ご家族への説明の時にも活かせます。
なにより、ご本人が「あぁ何も言えなかった…」という負の経験で終わることを防ぎたいのです。
笑顔で会話ができて、今日のリハビリは楽しかったなと思ってくださること
これを大切にしていきたいと思っております。
おわりに + 会話の中での取り入れ方のコツ
そんなわけで、あまりまとまりませんが、
・語想起課題ひとつとっても、意外と見えてくるものは多いよ。
・何語言えたかだけじゃなくて、作戦の立て方やヒントの効き方も考えてみてはいかがでしょうか
というお話でした。
あとは、意外とこの課題、いかにも「訓練です!」と厳しくやるとつまらないし、嫌~な課題になってしまいかねないので、いかに楽しくセッションができるかも工夫してみてくださいね~♪
ご家族の方も、もしお家で脳トレとしてやってみようと思われる方は、あまり訓練として構えずに会話の中で自然に声掛けすることをお勧めします。
「そういえばお庭に沢山お花植えてたよね、何があったけ?」
「いろいろ果物が出てくる季節になったねー。何が食べたい?果物って何があったっけな―?今の季節なら何がいいかな~?」
などなど
そして、「何個言えたか」はそっと確認しつつもあまり気にせず、「どんなヒントがあると思い出せたか」「どこから話が広がったか」「どんなテーマが得意なのか」などに目を向けてみていただけると、ふだんの会話がちょっと面白くなるかもしれません。
参考(ご紹介した文献など)
- Troyer, A. K., Moscovitch, M., & Winocur, G. (1997). Clustering and switching as two components of verbal fluency: Evidence from younger and older healthy adults. Neuropsychology, 11(1), 138–146.
- 日本語の文献を探したい方は、J-STAGEなどで「語流暢性」「カテゴリー流暢性」「語想起」「認知症」などのキーワードで検索すると、関連する論文が見つかると思います。


